一般社団法人 強度行動障害医療学会

ご挨拶

2022年9月「強度行動障害医療研究会」声明

2020年10月に発足した当研究会は、もうすぐ2年目の節目を迎えようとしています。「全国の強度行動障害を伴う知的・発達障害児(者)の医療・支援に従事する関係者の相互研鑽の場となること」を目的に、年3回の勉強会や毎年の総会、看護分科会[KYOKAN]や医師分科会[KYODO]などの活動を継続してきました。
そのような積極的な活動の一方、社会の中で「強度行動障害」が取り上げられる機会はまだまだ一般的とは言えず、虐待事例や痛ましい事件などに関連して取り沙汰される場面が目立つのが現状です。ある学会の見解でも、社会的な重大事件に関して「強度行動障害」対応の困難さが大きな要因であるような記載がありました。
果たしてそのような事件の根本の原因が「強度行動障害」を伴う人たちの存在なのでしょうか? 当研究会はそうは考えていません。
確かに、海外の類似概念である「Challenging Behavior」が意味するように、チャレンジすべきはまわりの社会のほうであり、「強度行動障害」は障害特性に応じた合理的配慮や適切な支援が未だ準備できていないための問題であると考えます。行動障害を伴う障害者に対して虐待リスクが高いのも事実です。しかし、そのような社会の状況と個々の事件を直接結びつけて考えるのには異議を唱えたいと思います。
支援・治療を続けている会員の皆様からの声は次のようなものです。
「強度行動障害をもつ方の支援者・家族は、苦しみ、辛い思いだけを持っているわけではありません。ストレスが多いことは間違いなく、虐待リスクが高いことに対しては十分留意すべきです。しかし、支援や関わりには喜びややりがい、愛しさや慈しみなどのプラスの側面もあります」「無関係な生活を送っているような人にも、広く、いろんなことを知る機会があればいいのにと思った次第です。知らない、知ろうとしないことが一番の悪のような気もしています」「何も発しないままでは何も変わらない、みんながいろんな思いを巡らせ、伝えたいと思っているということを伝えるべきであろうと思います」。
どのような利用者支援に対する価値を大切にして人材育成をしていくか、「強度行動障害」を含めた様々な状態を呈する知的・発達障害児(者)の人たちの情報が医師や看護師の養成過程でも当たり前になるためにはどうしたらよいか、そのために必要な施策や仕組みはどう整備されるとよいか、など様々な課題があります。それらに対し当研究会では、多分野のいろいろな職種が知識を持ち寄り、「いきいきとした豊かな、ふつうのくらし」のために尽力していきたいと考えています。
今後も当研究会の活動に賛同して下さる方が増えていくことを願い、情報共有や研鑽、全国的な「繋がり」を続けていく所存です。興味のある方は「強度行動障害医療研究会 入会申込み」の項をご参照ください。
2022年9月

強度行動障害医療研究会
代表 市川 宏伸
副代表 杠 岳文

「強度行動障害医療研究会」設立に当たって

強度行動障害という概念は、30年ほど前に福祉から出てきた概念です。「自傷、他害、こだわりなどが強く、指導上の困難を感じる」、「家庭で通常の育て方をし、かなりの養育努力があっても著しい処遇困難が持続している」人々でした(行動障害児者研究会・1989年)。これらの人々は、重度心身障害児者を念頭に、「動く重心」と呼ばれることもありました。福祉では、これらの人々を対象に、強度行動処遇対象者事業を開始しましたが、大きな成果は得られませんでした。
この事実については、厚生労働科学研究で検討が加えられ、「対象は入所処遇で困難を生じる事に限定している」、「入所施設を対象にし、処遇の場も入所施設としていること」、「行動障害の80%は自閉症の青年期パニックであることを見逃していること」が指摘された。同時に「対象にするべきは、知的障害ではなく発達障害であること」、「背景を考慮しない不十分な行動障害分析が行われてきたこと」、「医療との係わり合いの不十分さを改善する必要があること」を前提に改善を図るよう提案された。福祉では長年強度行動障害研究事業が進められ、2011年度から支援者養成研修が行われ、スタッフに参加者がいる施設には加算が行われるようになった。
医療では、「強度行動障害病棟」が旧国立精神科療養所を中心に設置されていましたが、厚労科研の調査では、入院期間が最長40年近くで、退院者が出ないため入院者もいないという、「施設化」を来していました(平成19年度厚労科研市川班)。現在は、強度行動障害の背景に自閉スペクトラム症が存在していることは多くの研究者が認めているところであり、エビデンスに基づく医療を確立して、福祉と医療の連携の下で強度行動障害児者に対応していくことが必要と考えています。是非多くの医療関係者及び関係者が強度行動障害の医療に参加されることを期待します。
強度行動障害研究会は6月の日本精神神経学会(仙台)の際に設立したいと考えていましたが、コロナのために学会は延期になり、直接参加は困難になりました。事務局長を中心にメール登録を呼びかけたところ、多くの方の賛同を得ました。是非研究会にご参加をいただき、この分野の医療を進展させようではありませんか?医療に関係する方であればどなたでも結構です。趣旨にご賛同いただける方、世話人をしていただける方は、是非事務局までご連絡ください。
2020年10月8日

世話人代表 市川 宏伸
副代表 杠 岳文
事務局長 會田千重